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天国なんて無いように、地獄だって無いのさ
僕の音楽への耽溺は、父の持つ小さな部屋から始まる。
そこは子供の僕が名も知らぬ、「よそのくにのひとたち」の音の宝庫だった。

結婚の直前に、自分の婚約者が大量の原稿用紙を燃やしている姿を、母は見ている。
若き日の父が小説を書き続けていたのだということを、のちになって僕は母から聞いた。そのときに父は、たしかに「掴もうとしていた何か」を捨てた。

最後まで陽の目を見ることの無かった原稿用紙は燃やされてしまったけれど、父のもう一つの支えであった音楽は残された。
「パパのレコード」は、いつしか「おとうさんのCD」となり、それは子供たちが生まれても増え続けた。
僕は父のプレイヤーから流れるリズムと、母が口ずさむ歌の中で育った。

やがて僕は父の部屋で、ビクターのマスコット犬ニッパーのように、スピーカーに耳そばだてる音楽と出会う。
"The Beatles"
両親が10代半ばだった頃、二人ともに夢中になったイギリスの革命児たち。

僕が彼らに夢中になるのに、ノスタルジーのフィルターなんて必要なかった。古臭いなんて少しも思わなかった。
彼らがロックのみならず、20世紀後半の現代芸術に大きな足跡を残していることなんか、知ったのはずっとずっと後になってからだ。

彼らがとうに解散していたこと、そして僕の生まれた年に、ジョン・レノンが衝撃的な死を迎えていたことも、スピーカーからの音圧を前にした僕には関係の無いことだった。

"Mind Games" John Lennon(1973)


John Lennon(1940-1980)
12月8日は、イギリス生まれのジョンが、憎みそして深く愛したアメリカ・ニューヨークで、狂信的なファンに射殺された日だ。
今年で28年になる。
その年に生まれた僕が少しずつ年を重ねるに連れて、12月8日という日は重さを増してきている。

今の父にとって、ジョンがどういう存在なのか気になることがある。
彼を神格化していた父にとって、その死が衝撃的な事実であったことに間違いは無いのだけれど。
40歳で時を止めたジョンの年齢を大きく超えた今の父が、彼の名前を口にすることは無い。


どうして僕たちは飛び立とうとしないんだろう?
どこか遠い遠いところへ旅立とうよ
僕たちはもう一度知り合った頃に戻るんだ
さあいこう、愛しい人よ

"Strating Over" John Lennon(1980)
by fabken | 2008-12-10 02:19 | naked
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