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タワゴト
深夜。
首都高速の高架下を過ぎると、道はその先に黒々とした闇をみせる。
寡黙なタクシードライバーに運ばれながら、弱い雨が、点滅する歩行者信号灯を歪ませるさまを見ていた。
夜から朝へと向かう曖昧な境界線上を、深夜のタクシーは走る。

こんな夜は、どうでもいいことを考えてしまうから困るんだ。




父親たちの世代が10代だった頃に、叫ばれていた言葉。
"Don't trust over thirty"
オトナタチヲ シンジルナ
その言葉を吐けば気が済んでいた季節は、とうに過ぎた。

そういえば誰かが言っていた。

歳を重ねると涙もろくなるっていうでしょ?
映画で悲しいシーンを観たから泣くっていうわけじゃなくてね。
何気ない光景をみただけでも涙が出るときがあるの。
あれは何故だか分かる?

"over thirty"がまだ遠かった僕は、ろくに考えもせずに答える。
「さあ?」

大人になって辛いことも増えてきたけど、それに耐える力もついてきたって思っていたの。
大切な人に傷つけられることもあったし、傷つけてきたこともあったけれど。
でもそうしているうちに、ハートが鍛えられてきたんだと思ってた。

「それって、感受性が磨耗しただけなんじゃない?」
そう言った僕に、憐憫を含んだ微笑を返し、続ける。

鍛えられたわけではなかったの。
耐える力がついたわけでもなかった。
辛いときや悲しいとき、その感情の動きや受けた傷を、自分に気がつかせない技術を学んでいただけだったのね。
だから、ふとしたきっかけがあると、スイッチが押されちゃう。
大人だって、心の傷に耐え続けることなんて出来ないから、それを自分で癒すために、自分を守るために押されるスイッチ。
理由もなく涙が出てしまうって、きっとそういうことだと思うの。

「ふーん・・」
そのときの僕にとって、理解するにはあまりにも遠い話だった。

僕は、あと2年を待たずしてover thirtyになる。
どこに行こうとしているのか。
そこで何が待っているのか。

"蒼氓"
by fabken | 2008-04-19 02:55 | naked
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