人気ブログランキング | 話題のタグを見る
Top
エリケンの夢
ここのところ、僕は眠ってばかりいるような気がする。いや少し違うのかな。眠ってはいるのだけれど、もう一人の僕はしっかりと目覚めているようなのだ。

いまや僕にとっての仕事となった「戦い」が終わったあと、休息をとるために僕は町に向かう。いつものことだ。ずっとずっと前から、僕に記憶というものが生まれてから、当たり前のように繰り返してきたことだ。そしてその戦いにかつてのような喜びは、もう無い。
傷んだ剣を足元に置き、静かに目を瞑る。やがて僕は夢をみる。その幻らしきものはやがて明確な像を結び、僕の目の前にあらわれる。そしてその中で僕は目を覚ますんだ。そう、さっき言ったもう一人の僕ってヤツがね。

そこでの僕は、すれ違う生き物たちに身構える必要なんて無いんだ。風変わりな服を着て、剣を持つことも無く、あのオルビスの塔のような、天を突く建物の中で暮らしているんだ。日が昇ってから落ちるまで、もう一人の僕はそこで机に向かい、似たような服を着た仲間達と長い時間を費やしている。
不思議だよね。戦うこともなく日々が終わり、そうやって過ごすだけで、もう一人の僕は日々の糧を得ているんだ。僕がそう言うと、「目に見えるものだけが戦う相手では無いんだよ」って言い返されるんだけどね。

そうなんだ。ちょっと前から、そのもう一人の僕ってヤツと話すことが出来るようになったんだ。自分と話すってのも可笑しな話だけどね。
「少し疲れてみえるね」
「それはお互いさまだよ」
「こっちの世界は少し複雑にみえるね」
「実際は単純なものだよ。解釈が物事を複雑にみせてしまうんだよ」
そう。他愛も無い話ばかりだ。
でもね。僕のこの質問にだけは、もう一人の僕は何も答えてはくれないんだ。
「君は僕の夢なのかい?」

今日も僕はずっと眠っていたみたいだ。正確にはまどろんでいたのかな。もう一人の僕はずっと起きていたみたいだ。少しだけ話したよ。そして最後に、いつもの質問をしてみたんだ。
「君は僕の夢なのかい?」
驚いたよ。僕のこの問いに、もう一人の僕が初めて口を開いたんだ。
「君が僕の夢なんだよ」
馬鹿げた話だろ?だって、「もう一人の僕は、僕の夢」に決まってるじゃないか。それはもう一人の僕が軽い相槌を打つためだけに用意している質問だったのに。
そう言おうとした僕に、がさらに言ったんだ。僕が持ち合わせていない、複雑なかげりを持った笑みを口元に浮かべてね。
「本当に疲れたときはまた話しかけるんだよ。君を繋ぐプラグは僕の世界にあるんだ」

そして今夜も静かに僕は眠る。その夢が、僕にとっての永遠に終わらない夢になるものであったとしても。
by fabken | 2006-01-30 23:48 | エリケン
<< 久しぶりだと書き方も忘れます ヨーダの如く隠棲中 >>